たのしくおんがく。

音楽のレッスン話などを綴っています。

「おやすみラフマニノフ」(小説のネタバレ含む注意)

中山七里さんという小説家の作品に「おやすみラフマニノフ」というものがあります。

 

作品中、主人公の音大生・晶と、その師の岬先生が、豪雨災害の避難所の体育館で、演奏をするシーンがあるのですが、演奏することを提案してきた岬先生に対して晶は

「空気読めないんですか!(中略)戦争とか天災とか、自分の命や生活が風前の灯だってときに人は音楽なんか必要としません」

とキレますが、岬先生はこのように諭します。

 

「科学や医学が人間を襲う理不尽と闘うために存在するのと同じように、音楽もまた人の心に巣食う怯懦(きょうだ)や非情を滅ぼすためにある。

確かにたかが指先一本で全ての人に安らぎを与えようなんて傲慢以外の何者でもない。

でも、たった一人でも音楽を必要とする人がいるのなら、そして自分に奏でる才能があるのなら奏でるべきだと僕は思う。

それに音楽を奏でる才能は神様からの贈り物だからね。人と自分を幸せにするように使いたいじゃないか」

 

演奏を披露した晶と岬先生は万雷の拍手を浴びます。

 

 

そして小説のラストで晶がコンサート・マスターを務めるオーケストラはラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」を演奏しますが、クライマックスで晶は悟ります。

 

「ボクはやっと知った。

音楽は職業ではない。

音楽は生き方なのだ。

演奏で生計を立てているとか、過去に名声を博したとかの問題じゃない。今この瞬間に音楽を奏でているのか。そして、それが聴衆の胸に届いているのか。

それだけが音楽家の証なのだ」

 

 

音楽を奏でることって、見えない敵と闘うようなところもあるんです。

いろんなことが起きて、いろんなことに悲しんで、それでも私は、音楽していくことを、諦めるのは嫌なんです。

それを取ったら私ではなくなってしまいますから。

 

世界中が、見えない敵に恐れている。

でも、私は前を向くし、できる限りやれることをやっていく。

 

私の音楽で、聴いた人が幸せになってくれるように。